“茶論(サロン) de Kyoto”の第1回は玉置辰次さんです。
玉置さんは、元禄2年(1689年)創業、300年以上もの間、“麩”を製造販売していらっしゃる『半兵衛麩』の当主・萬屋半兵衛11代にあたります。会長として、本業を支えながら、現在は“教育”の分野で大きく貢献しておられます。サロンの主宰者であるモナト久美子(業態開発研究所ディス・シュール・ディス 所長:本文中は“M”と表記)が五条本店にお訪ねしました。


玉置会長、ご挨拶が遅くなりましたが、新年おめでとうございます。年の瀬にもお邪魔して、ついつい長居をしてしまいまして...。
玉置 おめでとうございます。いやあ、折角やったらお正月飾りの間に来てもらったら良かったねえ。
残念でした。でも、この“義経と弁慶”のお人形は、今年のテーマとしてぴったり!今年の大河ドラマは『義経』ですから。これは、からくり人形ですか?(人形の写真/クリックで拡大⇒)
玉置 そうなんですけどね、残念ながら部分的に動かなくなってしまって。名古屋には、まだ、からくり人形を直す職人さんがいるらしいですがね。ま、今年の旬の話題だからと思って飾りました。そうそう、ちょっと見てもらいましょ、うちの“義経と弁慶”をテーマとした掛け軸を。
是非、拝見させてくださいな。
玉置 まず客間に飾ってあるのは、私の一番のお気に入り。これを描かはったのは、今から200年ぐらい前の人。見てください、この“瞬間”を切り取ったような勢いのある構図。
普通、五条の橋の上の“義経と弁慶”がテーマなら、きちっと、かっこよう、牛若丸がおりまっしゃろ。でも、この絵では、ほら、姿が見えへん。余りにも、天高う、一瞬に飛び跳ねてしまいはった。だから、カメラのシャッターで筋が残ったような、この跡だけがある。(掛け軸の写真/クリックで拡大⇒)
本当に斬新。誰もが知っている義経と弁慶の出会いのシーンで、こんなに臨場感溢れる絵は記憶にないです。牛若丸が目には捉えられない動きをしたから、ほら、弁慶は呆気にとらわれている...。いいですねえ。
玉置 これを飾ろうと思って、いろいろ出してみましたから、どうぞ二階へ。
ワ〜ッ。これ全部、“義経と弁慶”。先代から、ずっと同じテーマで集めてこられたんですね。これは、やはり、半兵衛麩さんの本店が五条の橋の近くに在るという、土地への想い、誇りをもってこられたからでしょう?それにしても、ずっと300年もの間、代々お店を守り抜いてこられたというのはすごいですね。老舗のブランド力、パワーですよ。(↓写真3枚クリックで拡大)
  
玉置 いや、皆さんね、“老舗というのはずっと変わらずに同じものである”とお考えですけど、本当は世相の変化や、世の中の様々な変化に対応して生き抜いてきた店のこと。つまり、時流にきちんと乗っていけるように対処してきた店こそが老舗なんです。そして、何よりもまず、“基本としてまじめである”ということだと思いますよ。つまり、商品自体が“まじめ”であること、“お客様への接し方がまじめである”こと、それから“自分自身がまじめ”であること。もちろん、最も大切に考えているのは“お客様”です。
それにしても、“半兵衛麩さんでの優雅なランチ”というのは、京都内外のマダムの定番コースになりましたねえ。年末お邪魔しました折に、料理の得意な女友達6人のためにと、こちらでお麩を購入して送ったところ、皆、すごく喜んでくれました。で、「半兵衛麩さんの本店では昼食をいただけるし、ここがまた素敵な雰囲気なのよ」と話すと、「今度、絶対行くわ」って・・・。
玉置 有難うございます。“麩”を美味しく食してもらい、その調理法等に関して、お客様に直接説明をしていくことで、“麩”そのものと、『半兵衛麩』へのお客様を増やそうと思ってはじめました。今ね、日本人の食生活が危機に在るとひしひしと感じてます。食は生命の源、すべての基本でありながら、非常に軽んじられている。この店は、母親の手料理や素材感、“伝統的な日本の食文化の継承”という視点を再認識してもらいたいという想いを伝える場。麩に関して、きわめて基本的な情報発信の場なわけですよ。
以前、お話を伺ったときに、このお店が“あやうくビルになるところだった”と。転機になったのがボストンを旅し、古く、美しい街並みを大切にすることの意味、意義を深く感じたことだったというお話でした。
玉置 そうです。ご存知の通り、私が本店を再生させたのは、今から20年程前に遡ります。今でこそ“町家ブーム”と呼ばれ、この10年足らずの間に、京都の町家は全 国的に注目されるようになりましたが、当時の状況は全く違っていた。もちろん、 昔ながらの佇まいを残し、そこで受け継がれてきた“暮らしぶり”を、お客様に 見ていただき、そのなかで麩自体も体験していただくということも、当然、頭に ございました。でもね、一番の根底を流れていた私の強い想いは、「この家も、 ご先祖様から受け継いできたあらゆるものも、私一人のものではない。みなさまのもの。自分は、 流れの通過点でしかない」という考えでした。ですからこそ、再生の道を選んだ わけですよ。
“食文化”ということについては、今までに幾度となくお話を伺いましたし、私自身も、その想いを聞いていただいてきました。食に“歴史、文化、哲学が融合している世界でも数少ない国”としての誇りを近年失いつつあると強く感じます。また、身近なことでは、例えば、子供の頃、うちの祖母や両親は、本当に“箸”の使い方にうるさかったし、学校では先生も厳しかったですよ。でも、最近は、そういう基本的な食育でさえ、おろそかになってきたように思うのですが。個人的には、テレビの食べるシーンでの出演者の箸の使い方など、気になってしょうがない。
玉置 おなじ。有名人、文化人と言われる方々と食事をご一緒しても、「このひと、まず、食べ方からきちんとして欲しいわ」と思いますね。
これは、教育、家庭でのしつけでしょうか。そうそう、遅くなりましたが、昨年、玉置会長は、京都市から『教育功労賞』を受賞なさって。おめでとうございます。それに、あのホームページの話もびっくりしました(笑)。
玉置 そうね(笑)。ちょうど、夏過ぎに、徳さん(*今枝徳蔵氏)と3人で食事したときに、モナトさんから「うちのスタッフが、半兵衛麩さんのホームページは素晴らしいって言ってますよ」と誉めていただいた。その後でしたよね、『最優秀賞・近畿経済産業局長賞』を頂いたのは。
すぐに、私の携帯に「誉めていただいたホームページが賞をとりましたぁ」という伝言が入って(笑)。私共の審美眼は正しかったわけです。
玉置 それにしても、インターネットはすごい。うちのホームページを、皆さん、よう勉強してこられる。私よりも正確にご存知で(笑)。
先ほど、五条本店は情報発信基地だということを仰いましたが、確かに、半兵衛麩さんの情報へのスタンスは見事だと思います。インターネットにせよ、パッケージにせよ、商品のブランディングにせよ、お客様のニーズとウォンツを見据えた、“麩”に関するあらゆる情報提供のアイデアがあり、“麩”を美味しくいただいてもらうための細やかな対応がみられるからです。
玉置 有難うございます。今は、家業の麩づくりの方は家族に任せていますから、これから、ライフワークとして、食文化の継承という視点で教育に関わっていくことが、私にできることかなと思っています。
私自身も京都で最初に手掛けた調査研究が“食文化”であったこともあり、強い思いを持っております。何か、近い将来、ご一緒できれば光栄です。お忙しいところ、今日はいろいろ貴重なものを拝見させていただきまして、有難うございました。

玉置会長はいつお会いしても本当にダンディであり、生き方、ライフスタイルに、憎いほど“お洒落なこだわり”をおもちだ。2003年春に出版された著書『あんなぁ、よおぅききや』は大好評のうち、既に早3刷! この本を読んで、玉置さんなりの“こだわり”の背景に流れる家庭教育、地域、国の教育に対する熱い想いを少しだけだが理解できたように思う。食文化だけでなく、幅広い“教育”分野における玉置さんの益々のご活躍を、心より願う一人である。

半兵衛麩:http://www.hanbey.co.jp/